「弥子ちゃんさ、いつも旨そうに何か食ってるよね」

弥子が口いっぱいにハンバーガー(KUA AINAのだ。小金持ちの女子高生め)を頬張ったまま、
何やらモゴモゴと自分に挨拶しているのを見て、笹塚は思わずそう言った。
弥子は口の中の肉片をようやく飲み込んで、
「…だって、美味しいもの食べてるときが一番幸せなんですよ」
と言った。

「確かに弥子ちゃんは、何か食ってる時が一番可愛いと思うよ」
「やだー、お世辞言っても分けてあげませんよ」
弥子はまだ2〜3個は入っていると思しきハンバーガー屋の袋を隠すように抱える。
「誰も取らねーって」
苦笑しながら、煙草を口に持っていく。
「…やっぱアレなの、デートの時も食い物屋巡りとかしてるわけ?」
軽い気持ちで聞いてみたつもりだったが、弥子はちょっと、複雑な表情をした。

「んー…あんまりそういうのは。アイツは凄く、えっと、その…偏食だから」
困ったように説明する、その「アイツ」という言葉で、
笹塚はあの、不思議な――どうしようもなく不思議な、探偵助手の男性を思い描いた。

(永遠に勝てないような、あの人間離れした魅力を放つ、男)

「んー、そうなんだ?」
「そう…基本的に、同じものを食べるって事が不可能っていうか」
「そんなのつまんなくないの? 弥子ちゃん食べるの大好きでしょ」

…心がざわつく。つい、こんなことを言ってみたりする。

「じゃあさ、今度自分と何か食いに行かない? アイツとより…楽しいかも知れ…」
きょとんとした顔で弥子が見つめている。顔が、近い。
不意に我に返った。おい、今何を言おうとしてた?
「…っいや、そういう深い意味とかじゃなくて、つまり…」
「嫌ですよ」
弥子はそう言って、笹塚の口許を指差した。触れそうなほど、近くに。
「笹塚さん、煙草吸うでしょ。煙でゴハンがまずくなっちゃいます。だから嫌」



……しばらく、微妙な時間が過ぎた。
何となく気まずくなってきて、笹塚が弥子から目をそらそうとした時、
不意に弥子のポケットの中で小さな電子音が鳴った。携帯電話の着信音だ。

弥子はそれに気付き、困ったような、ちょっと嬉しいような不思議な表情になり、
「あ、じゃあ私、もう戻らないといけないから。これで失礼します」
何の未練もない様子でくるりと笹塚に背を向け、走り去って行ってしまった。

「…アイツ、かね」
小さな声で呟き、笹塚は乾いた笑いを浮かべる。

(まるっきり、勝ち目がないわな、こりゃ)

「さて、仕事に戻るとしますかね」
誰にともなくそう言って、彼は彼女とは反対方向に歩き始める。
……煙草はしばらく、吸いたくねえなと思った。


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アンケートで「笹ヤコかいて」って言われたので書いてみたよ。
これも吾ヤコと同じ構図で、笹→ヤコ→ネウロ。お前そればっかだな!