メモ(肉屋のように)
★メモです。「おはなし」としての整合性はありません。
★死にます。血が出ます。グロくは無いと思うんですが注意です。
★ではどうぞ。
(わからないわからない
私はなにをしようとしているの?)
昏い探偵事務所。
ネウロの後ろから、そっと近づく影。
「…ヤコ? 何をしているのだ、そんなところで」
「……」
「母親に叱られるからもう帰ると――」
「ネウロ、すき」
「…?」
「すきなの、あなたのこと」
手に持っているのは包丁
買ったばかりの、キラキラした表面
「ねえ、ネウロ…愛している」
「何を今更…そんなことなどとうの昔に」
「でもダメでしょ? 無理なんでしょ?」
「何を…ヤコ?」
「あなたは魔人で私は人間だから結ばれるわけない」
「それは…」
「だから殺してもいい?」
ざくって、いい音をたてて肉に刃が食い込む
「ヤコ…?」
「だってあなたとひとつになるにはこうするしかないでしょう?」
頬に飛び散る赤い血。
(ああ、魔人も血は赤いのね)
ざくざく。
信じられないくらい簡単に、かれの身体は切り裂かれていく。
その手。その脚。その髪の毛。
ぜんぶぜんぶ…
(たべてあげるから)
それは恍惚、感じたことのないほどの快感。
どうしようどうしよう、気絶してしまいそう。
ああでもだめ、食べるの。食べるのかれを。
ずっと…ずっと好きだったのに
かれは私のこと、奴隷か何かだと思ってて
それにかれは…魔人のかれは
きっと私の何百倍も寿命があるんだから
私は…使い捨てられる存在なんだって
わかってたし、それでもいいと思ってたの
でも…
でも、こうすればいいって気付いたから…
かれを永遠に私のものにできるって気付いたから…
………
……手を、掴まれた気がする。
(え?)
そう、いままさに口に入れようと、噛み千切ろうとしてたかれの腕が
私を掴んだのだ。
「…うそ…」
腕はますます力を込めていき、私は抱きすくめられた。
血まみれのかれに。
「…愚か者が」
「ネウロ…」
「何に憑かれたのか知らんが、人間に魔人が殺せるものか」
「憑かれた…?」
「お前の中に在るソレは…『謎』だな」
かれの胸に抱かれたまま、私は少しずつ思い出してきた。
そうだ、この包丁。古物屋で不自然に光り輝いているこの包丁を触ったとき…
「時々こういうことがあるという。モノに憑いた『悪意』が人間に取り憑き、謎を形成する…」
「ネウロ…私…」
「しばらく様子を見ていたが、我が輩を『殺した』ことで貴様の『悪意』は『謎』を生み出した」
「……」
「つまり…我が輩の食事になったということだ」
そう言うなり。
かれの姿は魔人となり。
大きな嘴が私の頭上いっぱいに広がり。
「いただきます」
…そのまますべて真っ暗になった。
……目覚めるとそこは自分の部屋だった。
夕方…それとも明け方? ほの暗い室内。あれからどのくらい経ったんだろう…?
視線を移すと、ネウロと目が合った。
「…居たの?」
「覚えているか?」
ぶっきらぼうに訊かれる。私はちょっと、目を伏せた。
「ごめん…大体は覚えてる」
「愚か者が」
気まずい沈黙。
どうしよう、すごく怒ってる?
何か言おうと思うんだけど声にならない。
だって私…とんでもないことしたよ。ヤバいって。犯罪者だって。
「…食ってやった」
唐突にぼそっと、ネウロが言った。
「え?」
「貴様に憑いていたモノは食ってしまった。あの包丁に何か因縁があったようだな」
「…うん」
「かなり貴様と深く融合していたから…貴様の部分まで食ってしまわなかったか気になっていたのだが…」
…あれ? 怒ってない? っていうか心配してる?
「アレは…人間の中の欲望を増幅させるものだ」
「?」
「貴様等の言葉では、悪霊だとか呪いだとかいう表現で理解されるものだが…」
「……」
「あのとき貴様は、隠された自分の欲望をオモテに引きずり出された状態だった」
「え、じゃあ」
「だから…」
かれは私に顔を寄せた。
うわ、殺そうとしたことをネタにいびられるんだって一瞬硬直したけれど、
そうではなくて、もっと…もっと優しい…
「貴様は我が輩を殺したいほど好きだったと言うことだな?」
「ぶっ!」
思わず吹いた。
「そそそ、そんなこと…」
「何度も明言していたではないか」
「だだだ、だってそんな」
「だが残念だな、我が輩は死なない。貴様に何度でも殺されてやる」
「はあ?」
「殺すことが最上の愛情表現だとしたら、普通の人間はソレを一度きりしか実践できないだろう?
だが我が輩は無限だ。何度でも貴様に愛されてやるぞ? どうだ幸せだろう」
「ちょ…何かソレ、どこかで論理がねじまがってないーっ!?」
「愛されてやると言っているのに」
かれはそう言って私を抱きしめた。
うわ、どうしよう…顔が赤いの自分でわかる。
なんか違う、なんかおかしい、こういうオチでいい筈ないのに。
ああやっぱり魔人なんて好きになるもんじゃない。
殺したいほど好きになったって、それを受け止めるだけの度量があるなんて。
私絶対勝てないじゃない…。
「…もう殺さないのか。あれはなかなか興味深い体験だったが」
「あれは悪霊だか呪いのせいだったんでしょ? それにアンタは殺しても死なないじゃない」
「ふふッ」
かれはちょっと笑った。何を考えているんだかわかんない。ああやっぱり勝てない。
これって私が告って、受け入れてもらったって解釈で正解?
手がまだあのときの、肉の感触を血の感触を覚えている。
あのとき私は…たしかにしあわせだった。
かれを殺せてしあわせだった。
こんな恋愛でも…魔人だからアリなのかなって。
そんなこと思いながら、私はかれにもたれかかる。